上映会:越前和紙

日本の紙を代表する越前和紙。その産地である今立町五箇は、越前平野の南部、古代の国府を眼前にした水の豊かな山懐の里である。この記録は越前和紙の原点ともいうべき生漉奉書(きずきほうしょ)の漉き手、岩野市兵衛さん一家の営みを中心に、走査電子顕微鏡写真なども駆使しつつ、「紙を漉く」とはどういうことかを探る。紙漉きは種々の道具や材料を必要とする。漉き桁、漉き簾を作る人々、原料の楮(コウゾ)やネリの材料のトロロアオイを栽培する人など、和紙作りを支える作業も追う。

2月3日、節分の日。市兵衛さんは権現山上に鎮まる紙祖神川上御前の祠から火をいただいて来る。楮を煮る火である。11月末頃に収穫し、蒸して剥いておいた楮の皮を苛性ソーダ液で煮る。皮を柔らかくし、アクをぬく作業である。次に煮て柔らかくした皮から節やキズを取り除くチリトリをする。冷たい水中での手作業で、細かく根気のいる作業である。一家総出で行われる。この後樫の棒で打って繊維組織をほぐす叩解(こうかい)、水中で余分なデンプン質を洗い流すカミダシと続く。

原料の準備ができた。次にネリの準備をする。材料はトロロアオイの根とトリウツギの皮。ネリはその粘り気で繊維の動きをなめらかにして並びの方向を整えつつ、紙の厚みをつくる役割を果たす。

漉き桁を静かに前後に動かして紙を漉く。手首や全身の微妙な動きと目くばりによって均質な紙となる。紙を漉くとは、精妙な組織構成になっている楮の皮の繊維を一本一本にほぐし、もう一度からみあわせ、再構成することなのである。漉いた紙は慎重に圧搾して水分を絞り、板張りして乾燥する。最後に一枚一枚点検して奉書は完成する。

春、五箇のまつり。人々は紙漉きを教えたと、川上御前を崇敬する。
市兵衛さんは言う。「越前奉書の特徴は、ぽってりと白くて柔らかい。和紙の和というものを重んじて、家族の者が穏やかに、祈りをこめて紙を漉くのです」。
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