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研修報告 2014年1月

約40億年前から進化してきた藻

ホワイトバイオ、レッドバイオ、グリーンバイオとも違う微細藻類の応用があります。それは環境バイオという機能です。実は除染作業にも応用されようとしているのです。
(上記、下記写真は理化学研究所 理研ニュース7月号(2012年)より引用)

アメリカのスリーマイル島での原発事故の7年後に、事故処理のために原子炉内を調査したところ、藻が多量に繁殖していて、これを根絶するのに1年近くを要したらしいのです。放射線量が非常に高い箇所で他の生物が生存できないにも関わらず、約40億年前から進化してきた藻なればこそ逞しく増殖できたらしいのです。

最近の研究で放射性物質のセシウム、ストロンチウム、ヨウ素を高効率で吸収する藻の種類が明らかにされています。これを大量培養して放射性物質を吸収させようというのが写真で紹介した開発のコンセプトなのです。

現在、放射性物質の除去にはゼオライトという鉱物が良く使われますが、放射性物質を吸着したゼオライトをどう処理するかが課題になっています。それに対して、藻類は乾燥させると体積が大幅に減るため、処理も比較的容易になります。要は貯蔵庫がずっと小さくて済むのです。また、太陽光を使用するのでエネルギーコストも安くなります。藻自体の繁殖力が旺盛であること、またレンズ技術は日本のお家芸であることから、装置自体はシンプルで安く仕上げることができるらしいです。

水処理コストは国家予算の中で考えておくべき

広域な範囲におよぶ除染作業、廃炉が避けられない原子炉など毎日なにがしかの汚染水は発生しています。「除染」という言葉がおかしいのですが、たとえその場から放射性物質を除去できても、洗った水は汚染されているのです。だれかがどこかで回収して貯蔵しないと本質的な解決にはなりません。あまりに大変な作業で想像がつかないのですが、今後数10年間、この水処理コストは国家予算の中で考えておくべきものではないでしょうか?

もちろん藻だけで汚染水処理が完結するわけではありません。だいたい90%の除去が可能だろうと見込まれています。この部分に太陽エネルギーを利用できることが大きいのです。残り10%(自然放流レベルまで)の仕上げは電力や薬品等のコストを十分かけて丁寧に行うべきです。コスト最適なエンジニアリングは日本の水処理会社に任せれば良いと思います。放射能を吸収した藻(低レベル放射性廃棄物)の扱いが速く法制化されればよいのですが。

微細藻類の培養の効率性を上げるために様々なリアクター(培養槽)が開発されています。「微生物の培養」というと従来の微生物工学では通常は培養タンクが使われてきました。密閉した培養タンクに微生物を高密度で飼育して、餌や栄養分を与えて微生物の体内(あるいは分泌物)に有用物質を生産させて、これを抽出して製品化するという方法です。分かりやすく表現すれば、各家庭で市販のカスピ海ヨーグルトを種菌に使って、牛乳パックでヨーグルトを作るのも立派な微生物工学と言えます。

さて、レッドバイオの分野の話ですが、オメガ-3という油脂が注目されています。DHA、EPA、ALAと呼ばれる油脂で主に魚の油から生産されています。しばらく前までは日本では「頭が良くなる!」と言われて注目されていました。欧州においては、年率24%以上で生産量が伸びており、市場は1,600億円規模にものぼるとのこと。実はこのオメガ-3を積極的に生産する藻類がいるらしいのです。食物連鎖の結果、魚類の油脂に蓄積されるというのも面白い話です。

魚類からのオメガ-3の回収については、欧州ではある課題が持ち上がっているようです。それは魚類資源の枯渇につながるのではないかという点。もう一点が、海水の汚染による水銀などの重金属が魚油に濃縮されてしまうという問題です。そこで、魚類からではなく微細藻類からオメガ-3を生産しようという開発が活発化しているのです。

下記写真はオーストリアのあるベンチャー企業の非常に面白いリアクターです。
「ハンギングガーデン(吊り下げた庭)」と呼ばれる全く新しいコンセプトのリアクターです。6mの薄板の中をCO2の泡を上昇させることで藻に効率良く光合成を行わせるのです。薄板は太陽光を最大限利用できるようにその向きを自動制御できるようになっています。

今までの培養タンクの常識にとらわれない装置の開発によって、水産国でもなく、気温も低く、それほど日照時間も長くないオーストリアからオメガ-3生産の事業化が始まりつつあることが非常に面白い点だと思います。オランダをはじめ欧州は施設園芸の技術力は高いものがあります。農業と工業の融合した新しい分野の事業化が世界で始まっています。微細藻類の培養は過去の常識に囚われない発想が求められています。

半年間に渡って、藻事業の現状と将来性について報告しました。特にホワイトバイオの分野では、日本での産業化があと一歩です。当財団は今後も見守って参ります。

研修報告 2013年12月

藻を顕微鏡で見てみた

今回はグリーンバイオ分野の話題です。この分野は端的に言えば、農業や漁業においての藻類の利用ということになります。

ある研究者とお話ししているときに塩分に強い藻類の話になりました。ドゥナリエラ(Dunaliella salina)という藻類の話でした(上記写真)

世界中で研究は進んでおりさほど目新しい種類ではないようです。ただし、「耐塩性」を活かす工夫についてアイデアが面白かったです。

一般的に藻は塩分濃度が高いと浸透圧の関係で生育できません。ところがこの藻は3%以上という非常に高い塩分濃度でも繁殖するのだそうです。どんどん塩分濃度を高くしていくとこの藻が優占種となります。比較的簡単な操作で大量培養できるのだそうです。

そして、この藻は魚や貝の良好な飼料となるらしいのです。サウジアラビアにNational Prawn Companyという養殖業の大企業があるのですが、ここでは飼料のための藻類の大量培養を行っています(下記写真)赤潮

豊富で清澄な紅海の海水と強い日光を非常にうまく利用しているようです。当社のプレスリリースによれば、グリーンバイオとレッドバイオ生産のための藻類培養を拡張し2014年から稼働させ2,800人もの雇用を創出する予定とのこと。

日本のある研究者は日本近海の深層水に注目しながら、高級なエビや生ガキの陸上養殖を模索しておられます。海底には「湧昇」と呼ばれる現象で自然に深層水が湧き上がってくる所があるらしいのです。これを利用して清潔で稚魚・稚貝からの履歴のしっかりした養殖のシステムを構築しようとされています。食材偽装やノロウィルスの発生が問題となっている昨今、社会的意義の高い研究開発だと思います。

中東をはじめ養殖業は世界の成長産業です。特に付加価値の高い養殖業のシステム開発が藻類を利用して行われています。

研修報告 2013年11月

藻にも色んな種類があります。大量培養して藻の光合成の機能を利用する点では研究の方向性は共通するのですが、目的とする最終商品の用途分野が違うのです。自分とは違う用途の研究者との意見交換は知的好奇心の他流試合になるし、異なる視点のアイデアをもらえる有難い機会だと思います。今回と次回の報告では、そんな他流試合で耳にした面白い藻類をご紹介します。

微細藻類には大きく3つの分野に応用ができます。 生産品の色を象徴としてホワイトバイオ、レッドバイオ、グリーンバイオという区分けがなされています。たがが藻、されど藻。それぞれの用途が魅力的です。ホワイトバイオの分野の生産品は油脂です。当財団が特に応援している分野です。ホワイトバイオの分野についてはこのホームページで逐次報告していきます。

レッドバイオの分野の生産品は医療品や機能性食材です。写真1(東京大学大学院新領域創成科学研究科HPより引用)はヘマトコッカスという緑藻です。面白いことに強光ストレス下で培養すると天然色素である赤色のカロテノイドを生成します。ちなみにニンジンの色もカロテノイドです。カロテノイド類は抗酸化作用などの生理活性作用が注目されていて、機能性食材や化粧品への利用が積極的に行われています。

上記写真の藻類のカロテノイド成分はアスタキサンチン(Astaxanthin)です。最近、化粧品のコマーシャルで日本でも話題になるようになってきました。高い抗酸化作用を有し、紫外線や血中脂質の過酸化から生体を防御する作用があるとのこと。老化防止や眼精疲労改善や筋肉疲労の抑制、動脈硬化の予防効果という点に注目が集まっています。

最終製品の価値の高さから考えると、世界各地で色んな会社が事業化を図るのも分かる気がします。下記写真は米国ハワイ州での大量培養の様子です。このようなすでに事業化を図られた事例の知見はホワイトバイオの分野でも活かされていくことでしょう。

研修報告 2013年10月

微細藻類は体長数十μm程度の微生物です。これを培養池で1g/L(1,000ppm)程度の濃度にまで培養します。
こうして培養された微細藻類が池に溶け込んだCO2と栄養分(窒素やリン)を吸収しつつ太陽の光エネルギーを浴びて光合成します。
光合成の結果、油脂が生産されて細胞内に蓄えられます。

水中の微生物反応がシステムの基本なのですが、これと似たプロセスは下水処理場などの水処理施設に見ることができます。
上画像の操作は加圧浮上法という浮遊物の回収の方法です。
油脂を含んだ微細藻類にマイクロエアーを付着させると、泡と一緒に水面に浮いてきて結果的に濃縮した形で収穫することができます。

水処理の技術を応用しながらコスト優位性を追求するのがエンジニアリングであって、研究室でのビーカーレベルの実験とは一線を画します。
10月は応用されている水処理技術について整理し、コスト競争力の要因について把握しました。

単位重量あたりの発熱量

回収した藻油を下表のようにバイオ燃料に仕上げます。
藻類由来のバイオ燃料には大きく2種類があります。バイオディーゼル油(BDF)は含酸素油とも呼ばれディーゼルエンジンの燃料で軽油の代替品となります。

廃食油やひまわり油などの燃料化ですでに普及しています。一方グリーンディーゼル油は触媒反応で還元し水素を添加したもので航空機燃料となります。

こちらは差別化の余地があり、高温や高圧を避けるようなプロセスの開発が行われています。
両方の燃料とも商品として流通させるにはASTMという機関の品質規格に適合しなくてはいけません。
この最終商品の質まで考えて、これに適した油脂を生産する藻類を選択しなくてはいけないのです。
藻類の選抜から燃料油の規格の取得までの総合的な摺合せ技術がこれからの開発のキーポイントになってくるでしょう。

研修報告 2013年9月

藻からエネルギーを作る

なぜ藻が注目されるようになったのか?

2003年10月25日のEU議会で、2020年までに使用航空機燃料の10%を非化石燃料で代替することが義務づけされました。アメリカもこれに追随し、軍用機の燃料として商流を作る動きなどが形成されていて、これがベンチャー育成を加速させています。日本の航空業界で使用している燃料は1,200万kL/年といわれていて、そのうち10%の120万kL年が具体的な需要となる可能性があります。航空機燃料は当面の間は液体燃料(ジェット燃料)から電力や気体燃料に切り替わる可能性は低いので、この需要予測は堅いと思います。

写真は米国サファイアエナジー社の藻類の圃場です。当社は2008年以降、2.4億ドル(約230億円)の資金調達をして100エーカー(40ha)規模の培養池を稼働させ事業を立ち上げつつあります。要素技術はそろっているのだから、日本でもアメリカのような活発な事業の創造を果たしたいものです。9月は微細藻類に関する世界のベンチャーの動向を調査し、今後の世界のメガトレンドを明確にしました。

農業と工業を結びつけるグリーン産業の創出

日本国内の耕作放棄地は40万ヘクタールを超えています。このうち10万ヘクタールを微細藻類の培養の用地に充てるとすると、ここから得られるバイオ燃料は年間5,500万kLを超えると試算されます。これは我が国の原油輸入量の約20%に相当します。経済規模で加工・流通を含めると約10兆円規模となり、約40万人の雇用創出が期待できます。

また、日本の特殊事情として原子力発電所の問題があります。超長期的に原発ゼロというシナリオも十分あり得ると思います。理想的には再生エネルギー主体に移行するにしても、移行期間の数十年は火力発電に頼らざるを得ません。液体燃料の自給率向上のためにも微細藻類を軸にした新しい産業の創造が必要ではないでしょうか?

研修報告 2013年8月

「微細藻類を新たな『はたけ』の『こめ』にしたい。」

あるベンチャー企業の社長の言葉です。過去の延長線上に無い発想がイノベーションそのものです。
具体化した実証実験が上記の写真です。「これだったら何とかできるのではないか?」そういう期待感を抱きませんか?
実際に圃場で藻を培養するのは農家の皆さんです。

現場の方々に金銭的にも労力的にも過大な負担を強いない施設を開発できているかどうか?
それが開発の思想であり、ベンチャーのこだわりなのです。

8月は実験室をのぞかせていただいて、ベンチャー企業の育ててきた要素技術について知見を深めました。

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